ストーリーが難解なSF絵本【エレクトリック・ステイト THE ELECTRIC STATE 書評】


エレクトリック・ステイト THE ELECTRIC STATE

この本はシモン・ストーレンハーグという人の絵本です。と言っても、子供向けの絵本というわけではなくて、ストーリーがやや難解な大人向けのSF絵本といった感じです。あくまで表現の形が絵本形式になっているというだけですね。

ストーリーが難解というのは、つまり一回読んだだけではストーリーが把握できないような作りにわざとしてあるということで、何回か通しで読むと段々ストーリが見えてくる作りになっています。

さて、その難解なストーリー(ネタバレ)ですがまず物語の背景として1997年にアメリカで戦争が起こり、その戦争においてドローンと呼ばれるマシンが使われ、そのマシンを操っていたのがニューロキャスターという装置を頭に装着した子供達だったという説明があります。

このニューロキャスターという装置はどうもゲーム機のようなものだったらしく、どうやら子供達はこのニューロキャスターという装置によって戦争に利用されたらしいということがわかってきます。

さらにニューロキャスターを使い続けた子供たちは精神に異常をきたして、ニューロキャスターを外すと死んでしまうということもわかります。ここまでが物語の背景です。

戦争で世界が荒廃した後、ミシェルという少女の元にスキップというロボットがやってきます。このロボットは巨大なロボットではなく、かわいくて小さなロボットです。

ミシェルはスキップに誘われ旅に出ることになります。ミシェルとスキップは荒廃した世界を長々と旅し、やがて小さな町にたどり着きます。そしてそこでニューロキャスターを頭に付けた自分の弟を発見します。

ミシェルの弟は姉に助けを求めるためスキップを操り、姉を自分の元まで誘導してきたことが明かされ、ミシェルは弟を抱きかかえ街を出ます。

最後に二人は海岸から船でアメリカを脱出するのですが、海岸には取り外されたニューロキャスターと動かなくなったスキップが残されている絵で物語が終わります。


とまあ、こんな感じでなかなかややこしいストーリーなんですが、それはさておきこのシモン・ストーレンハーグという人は絵がめちゃくちゃ上手いですね。

絵がいちいちカッコイイのでちょっと関心してしまいました。出てくるロボットなどのデザインも洗練されていて、申し分なくカッコイイです。

この絵本は絵がめちゃくちゃカッコイイのでストーリーがいまいちわからなくても結構楽しめる絵本だと思いますよ。

(追記)

改めて読み直してみたところ、見落としていた点がいくつかあったので追記しておきます。

まずニューロキャスターを装着している子供達の脳神経は一つに接続されていて、脳間知性と呼ばれる一つの意識を形成しています。この脳間知性は意識というだけでなく物理的な形をとっていて、どうやらヒトゲノムに変わる新しい情報システムとして子供たちの体内に保持されているようです。

つまりニューロキャスターを装着している子供達は全く新しい生命体に進化しているわけですね。

しかしここで一つ大きな問題が発生しています。その問題というのはニューロキャスターを外した子供たちはほぼ全て数時間の内に死んでしまうことです。そしてこのことは死産と表現されています。

なぜ死産と表現されているかというと、ニューロキャスターを装着している子供達は生殖に問題を抱えているからです。つまりニューロキャスターを外しても死なず、ちゃんと生殖が出来る個体がいないと生命体としては不完全なので意味がないわけですね。

しかしたった一人だけ妊娠(と表現されている)に成功した個体が存在したようです(妊娠というのはニューロキャスターを外しても死なず、全く新しい生命体として生まれ変わるという意味です)。

そしてその個体がどうやらミシェルの弟らしいということが物語の文脈からわかります。その新しい生命体として生まれ変わた個体がミシェルの弟だという記述自体はないのですが、物語の文脈からその様に読み取れるわけですね。

ミシェルの弟は生まれた時から脳に障害があって他の子供達とは少し違っていたという記述がありますし、物語の最後のほうでミシェルの弟に追手が迫てくる(銃を構えた男が迫って来るシーン)という描写もあります(子供達を戦争に利用した組織がこの新しい生命体として生まれ変わた個体の行方を追っている)。

こうした文脈からみてミシェルの弟が新しい生命体として生まれ変わた個体であると考えられるわけですね。


ということで、これでほぼこの物語は読解出来たのではないかと思いますが、それにしても難解なストーリーです。これはもう完全にパズルですね・・・

(更に追記)

最後の方に出てくる巨大なロボットはドローンではない。このロボットは脳間知性がドローンを土台にして生み出した新しい生命体であるようです。うーん・・・ややこしい。

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